捨てていた「生ごみ」を肥料と電気に。
芝浦からはじまる持続可能な街づくりへの一歩

豊かな水をたたえる街、芝浦。近年、このエリアでは再開発が盛んに行われています。野村不動産が手がける「BLUE FRONT SHIBAURA(芝浦プロジェクト)」(以下、「ブルーフロント芝浦」)もそのひとつ。「空と海、世界へひらかれたこの街で、新しい人と社会の未来をつくりだす」ことを目指して約4.7haの広大な敷地にオフィス・商業・ホテル等で構成される大規模複合施設を建設しています。

ブルーフロント芝浦では、芝浦がサステナブルな街として発展できるようにさまざまな取り組みを実施していきます。その取り組みの一つとして入居者専用カフェや職域食堂では、食品廃棄物を利用した再生可能エネルギー創出や肥料の生成を行い、地球環境にやさしい食品リサイクルを実現する予定です。

今回は、このプロジェクトに関わる事業者の皆さんにインタビューを実施し、本取り組みが始まった背景や今後の展望についてお話を伺いました。

東京湾岸エリアの新たなシンボルとなる、ブルーフロント芝浦は「サステナブルなまちづくり」にも焦点を置いており、施設内で出たごみを肥料や電気に変換することで社会に循環させる廃棄物処理の仕組みの構築についても検討を進めています。

具体的な流れは次の通り。コクヨ&パートナーズ株式会社(以下、コクヨ)と株式会社ノンピが協同運営する入居者専用カフェとコンパスグループ・ジャパン株式会社(以下、コンパス)が運営する食堂で発生した食品廃棄物を、株式会社JR東日本環境アクセス(以下、JR環境アクセス)を営業窓口として、バイオガス発電事業を手がける株式会社Jバイオフードリサイクル(以下、Jバイオ)に届けます。回収された食品廃棄物からはバイオガスを生成し、それを発電に利用します。また処理後に残った「かす」は肥料としても活用され、この肥料で育てた食材を入居者専用カフェや職域食堂で提供する料理に使用したいと考えています。

廃棄物をただ捨てるのではなく、このような循環型の仕組みを選択することに決めた背景について、野村不動産の芝浦プロジェクト事業部の奥津は次のように説明します。

「建設敷地内にある浜松町ビルディングのトライアルオフィスにて、分別の仕方などを変えてごみを減らすという取り組みはすでに行っていますが、今回の取り組みでは、ただごみを減らすだけでなく、循環させる方法を模索し、循環型の仕組みを構築することにしました。ごみを循環させることは私たちにとって初めての取り組みでもあるため、事業主としての責任を持ち、パートナー企業の皆様と協力しながら積極的に取り組んでいきたいと考えています」

野村不動産 芝浦プロジェクト事業部 奥津

ブルーフロント芝浦には、サステナブルな取り組みに関する幅広い知識を持つ企業が参加しています。ここでは、プロジェクトで特に重要な役割を果たしているJバイオとコンパスの取り組みを紹介します。

Jバイオは、JFEエンジニアリンググループとJR東日本グループが出資して設立した企業で、食品廃棄物のリサイクル事業を手がけています。主に扱うのは、外食産業や食品卸売業から排出される食品廃棄物です。これらの業界からの食品廃棄物には異物が多く含まれており、肥料化や飼料化が困難であるとされています。

そこでJバイオは、異物が混入していても処理可能な食品廃棄物のバイオガス化に着目しました。微生物の力を利用して食品廃棄物からバイオガスを生成し、そのガスを発電に利用しています。

食品廃棄物からバイオガスを生成するプロセスは次のとおりです。トラックで運ばれた食品廃棄物を破砕機で破砕し、廃プラスチックなど異物を除去します。その後、粉砕した食品廃棄物を水と混ぜ、微生物の力で発酵させます。発酵が進むとバイオガスが生成され、これをガスホルダーに貯蔵します。貯蔵したバイオガスは発電機に送られ、燃料として発電に利用されます。

Jバイオフード代表の蔭山さん。食品リサイクルとバイオガス発電についてご説明している様子。
発酵槽で発生したバイオガスを一時的に貯留するガスホルダー

また、ガスを発生させた後に残る「かす」は肥料として活用できます。Jバイオの技術室室長である海老澤さんは食品廃棄物を循環させて「リサイクルのループ」を作ろうとしていると述べています。

「我々の肥料を使用して、農家の方々に農作物を栽培していただきます。次に、収穫された農作物を飲食店や小売業者の方々に提供していただきます。飲食店や小売業者で発生した廃棄物は再び我々が受け入れ、このようにリサイクルのループを作る取り組みを進めています」

Jバイオフード 技術室 室長 海老澤さん

食品廃棄物から作られた肥料を継続して使用したいという声が農家から挙がっていますが、普及には課題もあります。

「うちの肥料は万能ではなく、水分が多いため、また肥料を撒くためには大型の機械が必要です。そのため、使用方法をよく理解していただく必要があります。うちの肥料の特徴を理解し、積極的に使ってみたいと考える農家さんに出会うことが、現在の課題ですね。

そこで期待しているのが口コミの効果です。一度使用していただくと、継続したいという声が多く寄せられています。そういった方々が私たちの肥料を使用した実際の感想を広めてくれることを期待しています。やはり農家さんは、同じ農家さんの言葉を一番信用できると思いますので」

ビニールテープで仕切られた、液体肥料を試験散布した区画。他のエリアよりも草が長く育っていることが見て取れる

今回のプロジェクトで食堂を運営するコンパスも、サステナブルな取り組みの一環として廃棄物の削減に努めています。その取り組みについて、営業開発部の本多さんは次のように説明しています。

「廃棄物を減らす取り組みとして、出たごみを原因別に分別にして計量する作業を行っています。この分別は、お客様の食べ残しによるものか、作りすぎや期限切れなどオペレーション上の問題によるものかを区別し、原因に応じてごみを分けて計量することで、次に向けてより効果的な廃棄物削減策のアクションにつなげています。

たとえば、食べ残しが多い場合は、支持されていないメニューや提供量が多すぎることが原因かもしれません。原因を精査した後、メニューの見直しや量の調整を行うなどの改善策を実行し、廃棄物の減少につなげています」

コンパスグループ・ジャパン本多さん

ブルーフロント芝浦を通して、各社はどのような展望を描いているのでしょうか。それぞれの担当者にお話を伺ったところ、次のような回答が返ってきました。

野村不動産・奥津「ブルーフロント芝浦では、都心でありながら豊かな自然に囲まれて働くことができる新しいライフスタイルを提案します。自然を身近に感じる街だからこそ、自然との共生・共存について主体的に取り組んでいきます。芝浦サステナブルアクションに関し現在は建物面積の大多数を占めるオフィス部分中心に検討していますが、将来的には商業エリアに入居する飲食店や高層階に開業するホテルなどと連携して建物全体で資源の有効活用を進めていきたいです」

コンパス・本多さん「大きな施設ですので、皆で一つのゴールに向かって取り組むことで、より大きな効果が期待できると考えています」

コクヨ・加藤さん「私たちはこの施設で働く人々のウェルビーイングを高めることができたらいいなと思っています。仕事だけでなく、プライベートな部分も含めて、一人一人の幸福度を向上させるような環境を提供することが目標です。この施設が、ハード面とソフト面の両方で、従業員の人生全体にプラスの影響を与える場となればと考えています。私たちもそのために貢献していけたらと思います」

コクヨ&パートナーズ ソリューション営業部 加藤さん

Jバイオ・海老澤さん「我々は現在、さまざまなお客様から廃棄物を受け入れていますが、社会の形は固定されておらず、これからも廃棄物の発生や処理方法が多様に変化していくと考えています。このような社会の変化に対応し、常に社会全体への貢献を考えながら、進化を止めずに今の取り組みを続けていきたいと考えております」

JR環境アクセス・米山さん「JR東日本グループはJバイオへの食品廃棄物の提供を始めて以来、食品のリサイクル率が向上しました。他の企業のリサイクル率を上げることにも成功して、このリサイクルループがさらに広がれば、社会全体もより良くなるだろうと考えています」

JR環境アクセス 計画推進課 米山さん

最後に、芝浦という土地で今回の取り組みをすることについて、野村不動産の奥津は次のように意気込みを語ります。

「当社の歴史のなかでこのような規模の開発を行うことは初めての試みです。街づくりを行うにあたり大切にしているのはグループステートメントである「あしたを、つなぐ」こと。街を訪れる方に快適に過ごしていただくことはもちろんですが、長期的な目線で街そのものが成長していくための持続可能なまちづくりを意識しています。

芝浦サステナブルアクションの実践を通じて、これからも未来へつながるまちづくりを行ってまいります」

街を訪れる人や過ごす人に、新たなライフスタイルを提案するブルーフロント芝浦。サステナブルな街づくりへの一歩が、ここから踏み出されます。