芝浦を、さらに愛着の持てる場所へ
〜町会×企業の、地域清掃の歩み〜

野村不動産株式会社が中心となって2021年に設立された、まちづくり協議会。芝浦一丁目地区を中心にまちづくり活動を行っている協議会では、野村不動産のほか、町会、地権者、鉄道事業者、行政、教育機関など多様な企業団体が参画し、芝浦町会と協力して清掃活動をはじめ芝浦の魅力を向上する・芝浦に対する愛着を育む活動を展開しています。今回は、芝浦一丁目町会長の岡田さんと海岸二、三丁目町会長の坂井さん、旧芝離宮恩賜庭園で清掃活動を行う公益財団法人東京都公園協会の遊佐さんに、それぞれの視点から見た芝浦における清掃活動の取り組みについて伺いました。

芝浦一丁目町会では月に一度、土曜日に一時間ほど清掃活動をしています。町会の住民、福祉事業所の関係者、障がいを持つ方々、保育園の先生、そして保育園に通う子ども達など幅広い年齢層の方々が毎回20〜40名ほど集まり清掃活動に参加しています。芝浦一丁目町会長の岡田さんは、街を綺麗にすることはもちろん、お互いが顔見知りになって、すれ違った際に声をかけあえる関係性を構築できることも清掃活動の大きな目的だといいます。

芝浦一丁目町会長の岡田さん

清掃活動について海岸二、三丁目町会長の坂井さんは「会社や家の前は皆さんがきれいに保っていますが、公園などそうでない場所は比較的汚れやすいんです。当初はゴミも多かったのですが、清掃活動を続けることでだんだんとゴミが少なくなってきました。街がきれいになることで、犯罪の発生も少なくなるという効果があります」と、地域の清掃活動がもたらす肯定的な変化について語ってくれました。

海岸二、三丁目町会長の坂井さん

「ただ、土曜日に開催されるため、芝浦にオフィスを構える企業の皆さんは参加しにくい状況でした。そもそも休日の土曜日に開催されており、清掃活動があることすら知らないという状況でした」と岡田さんは付け加えます。

その一方、野村不動産はまちづくり協議会を設立し清掃活動を呼びかけ、芝浦一丁目町会と共に活動を広げることになりました。協議会の立ち上げにも関わった前任の野村不動産佐々木は「まちづくり協議会には芝浦エリアに属している企業が参加しています。町会の方や芝浦に住んでいる方、芝浦で働く方以外にもこの町のことを知ってもらいたいという気持ちから、企業の方も参加する清掃活動が始まりました。毎月第三水曜日に開催しており、この二年で30回近く清掃活動が行われてきました」と話します。

清掃活動は文化財である旧芝離宮恩賜庭園でも行われます。庭園を管理する公益財団法人東京都公園協会の遊佐さんは活動について、「清掃に参加した多くの方々は旧芝離宮庭園の存在を知っていましたが、実際に園内に足を踏み入れたことがなく、どのような場所なのかを知らないという方が多いようでした。でも庭園の美観維持(落葉清掃や除草)や伝統文化(こも巻き外し)に関する活動をつらい作業と思わず、むしろ新鮮でリフレッシュできる体験だと感じていただけたことが、この地域と協力して維持作業を進める上で大きな励みとなりました。今後は作業中だけでなく、作業後の意見交換もできればと考えています」と話しています。

公益財団法人東京都公園協会の遊佐さん

まちづくり協議会が発足してからこれまでの間、毎月欠かさず清掃活動を実施してきたなかで、継続するためにどのような工夫をしてきたのでしょうか。佐々木は、会員の皆さんが参加しやすい時間帯に清掃活動を実施するほか、企業が義務感を感じずに活動に参加できるよう企業にとってメリットを感じてもらえるような活動を心がけてきたといいます。

「同じ業界に属する会員の皆さんが情報交換の場を持てるようお手伝いしています。また、これまで地域活動への参加機会が少なかった企業に対しては、若手の皆さんが地域活動に積極的に関わるきっかけを提供しています」

コロナ禍でどのように活動を推進していくべきか、手探りで模索していた時期もありました。「懇親会の開催ができなかった時期がありました。会議体だけでは交流がなかなかできず話し合いが形式的なものに留まってしまうことがありましたが、清掃活動を通してソフトな会話も含めてさまざまなコミュニケーションを取ることができるようになりました。事務局と会員だけでなく、会員同士でも対話が生まれ、顔を合わせる関係性が築けたというのは一つの成果だと感じています。」

野村不動産 芝浦プロジェクト企画部 前任 佐々木

「BLUE FRONT SHIBAURA(芝浦プロジェクト)」(以下、「ブルーフロント芝浦」)では、運河沿いに水上テラスや桟橋を設けるなど、親水空間(注:「水に親しむ」ことを目的とした空間のこと)の魅力を高めています。この取り組みにより、芝浦の住民だけでなく、訪れる人々すべてが楽しめる空間を創出することを目指しています。

長年にわたり芝浦エリアを見守ってきた町会長の岡田さんと坂井さんに、ブルーフロント芝浦への期待を伺いました。

「芝浦には昔から運河がありますが、その魅力を最大限に活かすことはこれまで十分に行われてきませんでした。ブルーフロント芝浦は親水空間を楽しむことに焦点を当てた、これまでにないタイプのまちづくりです。芝浦の魅力を高めるためには、住民や芝浦を訪れる人々が楽しめることが重要です。これからの開発に期待しています」と岡田さんは語ります。坂井さんは「運河周辺の楽しみ方として、運河を眺めながら食事ができる場所を設けたり、運河での釣りを可能にしたらどうかと考えています。私自身、釣りが好きなので、芝浦でハゼ釣りが楽しめたらと思っています」と夢を膨らませます。

さらに、佐々木は、清掃活動やまちづくりに留まらず、防災に関する情報交換や意識共有の場としても協議会を機能させたいと言います。「協議会の活動を通じて顔見知りが増え、何かあった時に互いに助け合えるような関係性や体制を築くことで、エリア全体の防災体制を強化できるのではないかと考えています。災害時にお互いがどんな支援ができるかを予め知っておくだけでも、助け合いのアイデアが生まれやすくなります」と、地域全体での防災体制の強化に対する期待を語りました。

自分の住んでいる地域には帰属意識や愛着はあっても、働いている地域に対して同じ感情を持つ人は多くないのではないでしょうか。働いている地域に対しても帰属意識や愛着を持つことで、まちをきれいに保とうとする意識が芽生えます。また、住民や働く人などさまざまな立場の人が出会い、一緒にまちづくりに取り組むことでまちに新たな魅力が生まれるかもしれません。企業も参画する地域清掃活動が、その地域への帰属意識や愛着を高める一歩になることを期待しています。