デベロッパーならではの強みを活かし、廃食用油を使った
航空燃料プロジェクト「Fry to Fly Project」に携わる
自宅から排出される揚げ物油が飛行機の燃料に?野村不動産グループが「Fry to Fly Project」に携わる理由
廃食用油から持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel:SAF)をつくる「Fry to Fly Project」という取り組みが、2023年、日揮ホールディングス株式会社(以下、日揮)を中心に始まりました。
100を超える団体が同プロジェクトに参加しており、野村不動産グループも加盟しています。一見すると、不動産会社は航空業界やSAFとあまり関係ないように見えますが、なぜ野村不動産グループはこのプロジェクトに参加したのでしょうか。そして、「BLUE FRONT SHIBAURA(芝浦プロジェクト)」との関わりは?今回は、日揮ホールディングスの西村さんと、野村不動産ホールディングスで「Fry to Fly Project」に携わる原田に、プロジェクトの構想や取り組みへの想いについて聞きました。
航空業界の脱炭素化において重要な役割を担う「SAF」
ポップな見た目が人目を惹く「Fry to Fly Project」のビジュアルデザイン。排出された食用油(廃食用油)を航空燃料にするプロジェクトです。SAFは化石燃料以外を原料とする持続可能な航空燃料であり、多様な原料と製造技術が用いられています。たとえば、廃食用油から製造されるSAFを使用することで、CO2排出量を最大84%削減することが可能です。
海外ではSAFの義務化に向けた動きが活発化しており、一部の国ではSAFの使用が義務化されている場合もあります。西村さんによると、「航空業界の脱炭素化において、SAFが占める役割はかなり大きいです。航空機を電化することが極めて難しいため、CO2排出量を抑えた液体燃料であるSAFへの注目が高まっています」
日本は国産SAF10%供給という目標を掲げており、「Fry to Fly Project」を主導する日揮ホールディングス等が設立した国産SAFの製造会社SAFFAIRE SKY ENERGYは今年中にSAF製造設備を建設し、大阪万博の開催される2025年には製造・供給を開始する予定です。
日本で年間約50万トンの食用油が廃棄されている
「Fry to Fly Project」の参加団体は2024年3月時点で100団体を超えました。さまざまな業界が参加するなか、一番の課題はSAFの原料となる廃食用油の確保だと日揮ホールディングスの西村さんは話します。
「国内の廃食用油排出量は年間約50万トンで、なかでもレストランなどで排出される、いわゆる事業系の廃食用油は約40万トンあります。そのうち約12万トンは海外に輸出され、その一部は海外で製造されるSAFの原料となっていると言われています。日本の廃食用油が海外でSAFになり、それをまた日本に輸入するという現象も起きています。
そうではなく、日本で排出された食用油を使って、国内でSAFを製造し、それを航空燃料に使う。このようにして資源を国内で循環させようというのが我々の狙いです。一方、家庭からの廃食用油は年間約10万トンと、事業系の廃食用油の1/4程度です。家庭系の廃食用油はほとんど回収されずに廃棄されているため、回収するしくみを作り、SAFの原料にできないかと考えています」
なぜ、野村不動産グループが「Fry to Fly Project」に?
野村不動産グループは、航空業界や外食産業と異なり、野村不動産自体が廃食用油を排出するのではなく、一見すると「Fry to Fly Project」への関わり方は見えにくいかもしれません。国内においてSAFの認知度が低いこともあり、原田によると、不動産会社である野村不動産グループが同プロジェクトへの加盟を検討するにあたり、社内でもさまざまな意見があったと言います。
「たとえば、野村不動産グループがエリアマネジメントを手がけている芝浦エリア内の飲食店舗のテナント様やホテルから廃食用油を回収するしくみを作り、SAFだけでなくエリア内で活用できるバイオディーゼル燃料に活用していくことも考えられます。不動産業界と直接的に結びつかないSAFに活用することについて、取り組みの必然性を伝えることは難しさもありましたが、「エリア内で回収したものが、再びエリア内で活用される、循環の仕組みを整備することが大切」「多様な拠点を運営・管理する私たちだからこそできる関わり方がある」ということを伝えるなかで、Fry to Flyプロジェクトへの加盟が実現できました。
当社は2050年までのありたい姿としてサステナビリティポリシー「Earth Pride―地球を、つなぐ―」を策定しており、重点課題(マテリアリティ)の一つにサーキュラーデザインを掲げています。それを実践していくにあたり、当社グループのビジョンにもある“Life & Time Developer”として暮らしに寄り添ったサービスを提供していきたいという姿勢が根本にあります。
サーキュラーデザインの取り組みは、すでにグループ各社の事業を通じて、たとえば建物長寿命化やシェアオフィス事業の展開を行っているほか、グループ全体として廃棄物量の削減目標を掲げるなどの施策を行っています。そのなかで、他にもお客様の生活に寄り添ったサービスを提供できるツールがあるのではないかと検討を進めていました。エリア内で回収した廃食用油をSAFやバイオディーゼル燃料に活用することができれば、『暮らしに寄り添う×循環型社会』の実現につながるのではないかと考えています」
また、西村さんは「野村不動産さんに参加いただいたことで、一般消費者の方への啓発やアプローチがさらに容易になったと思います。私たちは3D VRを使ってSAFで飛行機が飛ぶまでのサプライチェーンを体験できるようなツールも作っているので、たとえばマンションでそれを住民の方に体験いただくことなどを通じて、少しでもSAFを知っていただくきっかけ作りができるのではないかと期待しています。その第一歩の試行的な取組みとして、野村不動産グループの管理するマンションにおいて廃食用油回収の実証実験やイベントの開催を今後実施する予定です。併せて、SAFの取り組みを芝浦エリアにおいても始めたいと考えています」
「自宅で出る油で飛行機が飛ぶ」をもっと身近に
「Fry to Fly Project」の最終的な目標は資源循環による脱炭素社会の実現ですが、そのためには一般消費者が協力しやすい仕掛けが必要だと西村さんは話します。
「単に『廃食用油を集めます』だけでは、自宅で廃食用油をわざわざ集めるという行動にはつながりにくいと思います。いかに自分ごととして捉えてもらえるかがカギになるので、例えば『ペットボトルに入れてマンションの回収場所に持っていくだけ』というような、誰でも簡単にできるような仕組みづくりをしていきたいですね」
原田も「生活者の方々のご協力が大事だと思いつつ、『廃食用油をリサイクルするために持ち込む先がないから油を固めて廃棄するしかない』『不要品を再流通(リサイクル)させるのための回収ボックスがないため燃えるゴミとして処分する』など、現状はその回収の仕組みが未整備であることが課題だと感じています。デベロッパーとしては、こうした循環型社会に寄与する「インフラ」を整えつつ、生活者の方には、義務感ではなくワクワクする気持ちを実感いただけたら良いなと考えています」
異業種だからこそ、それぞれが持つ強みがあるーー野村不動産グループは、「Fry to Fly Project」をリードする日揮ホールディングスだけでなく、その参加団体・企業とも対話を重ね、互いのリソースや強みの掛け合わせを模索しています。芝浦でも、廃食用油の回収・活用の仕組みづくりなどから、脱炭素社会・循環型社会の実現に向けて取り組んでいきます。