なぜゴミを分けるのか?実証実験で見えてきた
環境と向き合う小さなアクションの大きな価値

2025年2月竣工予定の「BLUE FRONT SHIBAURA(芝浦プロジェクト)」S棟に、野村不動産株式会社をはじめとするグループ各社の本社を移転します。それに先立って、建設敷地内にある浜松町ビルディングにトライアルオフィスを設けており、2023年2月に“ゴミ分別促進”の実証実験を開始しました。実証実験から1年以上経ったいま、担当者に取り組みの経緯や想いについて聞きました。

多くの企業や商業施設が入居する複合ビルでは、テナントで出るゴミはテナントごとに処分するのではなく、ビルが一括で回収・処分する仕組みになっています。テナントから出たゴミの処分や処分のための費用をビル側が負担するのはなぜなのか、ふと疑問を持ったのが最初のきっかけだったと芝浦プロジェクト企画部の粂と青山は話します。

そこで、芝浦プロジェクト企画部の数名は清掃員の制服に身を包み清掃員の方に一日同行してゴミ回収を体験し、実態を調査しました。そうすると、オフィスのゴミ箱に捨てられたゴミの再分別を清掃員の方がしており、更にその再分別業務が清掃員の方の業務の3割程度を占めていることを知り、衝撃を受けました。
オフィスではゴミ箱に捨てたあとの責任までは意識がしづらく、分別がおろそかになってしまっているようです。

野村不動産グループのオフィスビルや分譲マンションの日常清掃を担っている野村不動産アメニティサービス株式会社の鶴見はこの状況について「どのように分別すれば良いのか、捨てる側と処理する側のあいだで認識が十分に共有されていないことが一因かもしれません。このような状況を改善し、お互いにとってよりスムーズなゴミ処理を実現するためには、理解を深めて認識を一致させることが大切です」と話します。

野村不動産アメニティサービス株式会社浅野(写真左)、鶴見(写真右)

なぜゴミの分別が正しくできていない状況に陥ってしまうのか、芝浦プロジェクト企画部では二つの仮説を立てました。1つは分別表記が主観によって違うということ。「たとえば『燃えるゴミ』と『燃やせるゴミ』というように、使う言葉が微妙に異なると、それに伴ってゴミの分別方法も人によって変わってしまうのではないかと考えました」

もう1つは、家庭ゴミとオフィスのゴミの分別ルールが違うということ。「家庭ゴミは住んでいる自治体のルールがあり、オフィスのゴミはオフィスがある自治体のルールとビルが提携している回収業者のルールによって分別方法が決まっています。その違いがややこしく、きちんと分別しているつもりでも、間違った分別になってしまっている可能性があります」と青山は言います。

芝浦プロジェクト企画部 青山

そこで、ゴミの分別表記を変更し、分別ルールを周知することで分別率がどのくらい変化するのかを調べるために、週替わりで複数パターンの実証実験が行われました。評価方法としては、毎日ビルのゴミを回収する清掃員によって5点満点で点数をつけられる方式が採用されました。点数は清掃員の主観に基づきますが、毎日同じ清掃員が同じフロアを担当するため、評価に大きなぶれが生じることは無かったそうです。

2022年12月には現本社所在地である新宿野村ビルの一部オフィスフロアでゴミの分別表記を簡易的に変えてみました。その後2023年2月には本社移転を見据えた芝浦のトライアルオフィスでも分別促進のための取り組みを始めました。「最初に実証実験をはじめた新宿オフィスは本社ビルとして約40年にわたり使用しています。そこでは、1番左に燃えるゴミ、その隣が燃えないゴミといった具合に、ゴミ箱の大体の配置を自然に覚えていて、皆ゴミ箱の表記を見ずに感覚的に捨てていることに改めて気づきました。せっかくゴミの分別表記を変えても意味がないため、芝浦のトライアルオフィスで実施することにしました。加えて、新しいオフィスだと『綺麗に使おう』という意識が働くかなと思ったのも狙いです」

芝浦トライアルオフィスのゴミ箱の表記。イラストを添えわかりやすい表現になっている。

試行錯誤するなかで、ゴミ問題を“自分ごと”として捉えてもらうことの難しさを痛感したと青山は言います。「社員に向けて、何度かゴミ分別に関するメールを送りましたがほとんど効果がありませんでした。仕事中にゴミ分別のメールがきても、流し読みして終わってしまいますよね。地道な方法ですが、口コミで少しずつゴミ分別の取り組みのことを知ってもらい、徐々に認知が広まっていきました」

粂(写真左)と青山(写真右)海眺望が素敵なトライアルオフィスにて

一方、この取り組みを進めていくなかで嬉しい変化もあったといいます。「ある社員が、『ゴミをきちんと分別して!』とぷんぷん怒っているキャラクターの絵が描かれた貼り紙をするというアイデアを出してくれました。それをゴミ箱に仕掛けると、数日間だけは効果があったのですがすぐにいつもの状態に戻ってしまいました。しばらく経ってから、他社員から『分別の必要性を分かり易く伝えて欲しい』という別の声が挙がりました。そこで、今度は『分別が環境にもたらす好影響といつも分別してくれてありがとう!』と言う貼り紙に変更しました。すると効果は1週間以上も続きました。効果が長続きしたことももちろん嬉しかったのですが、その社員自らがアイデアを出し、それを更に改善していけたことが何よりも嬉しかったです。“自分ごと”として考え始めている証拠だと思います。」

今後の取り組みとして考えているのは入居テナント様ごとの「ゴミの見える化」だと粂は語ります。「現在検討中の段階ではあるものの、今後はゴミが見える化できるシステムを取り入れることでテナント様のゴミを減らすモチベーションが高まることを期待しています。テナント様は自分で出したゴミを把握することが可能になり、排出量に意識が向くはずです。現在では当然のように見える化されている電気や水道のように、ゴミ排出量も当たり前に見える化される時代がきます。毎月のゴミ排出量を種類ごとに一覧にして見える化する、ゴミの削減量に伴ってどれくらい環境に貢献したかを計算するなど分かりやすく可視化できれば利用者にとっても“自分ごと化”しやすいですよね。」

芝浦プロジェクト企画部 粂

取材の終盤に青山はあるスマホ画面の写真を見せながら話を続けます。青山は旅行先でユニークなアイデアのゴミ箱を見つけると写真を撮ることにしているそうです。スペインのファストフード店で撮影したゴミ箱は、食べ残しや砂糖の入ったスティックの紙ゴミなど、そのファストフード店で出るゴミの種類がリアルに描かれていたそうです。「言葉や分別ルールを知らなくても、これなら誰でも簡単に捨てられます。日本でも観光地ではこのような取り組みがすでに行われていると思いますが、直感で簡単に捨てられるようなゴミ箱のデザインというのも今後模索していきたいと思っています。こういったさまざまな取り組みを通して、街の魅力を上げることにも貢献していきたいですね。」

旅行先のスペインで見かけたゴミ箱(写真提供:青山)

毎日の生活の中で無意識に行われるゴミ分別は、実は私たちにとって最も身近なサステナブルアクションの1つかもしれません。2025年にビルが竣工し本社が移転したあと、分別ルールが私たちの習慣や行動にどのような変化をもたらすのか。ゴミ分別は個々の小さなアクションに過ぎないかもしれませんが、全員が参加することで、環境へのポジティブな影響を生み出す力を持っています。私たちの日常の選択が、より持続可能な社会への大きな一歩となることを願っています。